ホワイトニングの説明を読むと、たいてい「薬剤が歯の色素を分解します」と書かれています。ただ、そこから先が続かないことが多く、どうやって分解するのかは分からないままになります。
歯に薬剤を作用させると聞けば、多少の不安はあるものです。そして始めてみると、装着時間を守るように言われ、間隔を空けるように言われ、ジェルの保管方法まで指定される。理由が分からないまま決まりごとだけが増えていきます。
実のところ、これらの決まりごとはすべて仕組みから来ています。何がどう働いているのかが分かると、なぜその条件が必要なのかも、なぜ効かないものがあるのかも見えてきます。
削るのでも、塗るのでもない
歯を白く見せる方法は、大きく3つに分かれます。
削って白いものを被せる。 歯の形を整えて、上から人工物をかぶせる方法です。歯そのものを削ります。
表面を覆う。 歯の表面に白い材料を貼ったり塗ったりする方法です。歯の色は変わっていませんが、見える面が変わります。
色そのものを変える。 ホワイトニングはこれにあたります。歯を削らず、何かを貼りもせず、歯の中にある色を変えているという点で、前の2つとは成り立ちが違います。
そのため、歯の形も厚みも変わりません。そして色を変えているだけなので、時間とともに元の方向へ戻っていきます。永続しないのは、この仕組みの当然の帰結です。
なお、歯の黄ばみには表面に付いた着色によるものと、歯の内部の色によるものがあります。ホワイトニングが対象にするのは後者です。この区別については「歯の黄ばみを取る方法は?取れる黄ばみと取れない黄ばみの見分け方」で整理しています。
薬剤が働くまでの4段階
では、どうやって色を変えているのか。過程を分けて見ていきます。
① 薬剤が歯の内部へ入る
ホワイトニングに使われる薬剤は、歯の表面で止まるものではありません。エナメル質を通過して、その内側の象牙質まで届きます。
歯の内部の色を変えるのですから、内部まで届かなければ話が始まりません。ここが、表面の汚れを落とすクリーニングとの決定的な違いです。
では、なぜ通過できるのか。エナメル質は体の中でもとりわけ硬い組織ですが、隙間がまったくないわけではありません。そしてホワイトニングに使われる薬剤は分子が小さく、その隙間を通り抜けられる大きさです。
歯を白くする成分が歯科医師の管理下でしか扱えないのは、この性質と関係しています。表面に留まらず内部まで届くということは、作用が及ぶ範囲も、確認しておくべき条件も増えるということだからです。
② 分解してフリーラジカルが生じる
ここが説明から抜けやすい段階です。
薬剤そのものが色を消しているわけではありません。 薬剤は口の中で分解され、そのときにフリーラジカルと呼ばれる、反応しやすい成分が生じます。実際に働くのはこちらです。
薬剤を「色を消す液体」と捉えると仕組みが見えなくなりますが、「分解して働き手を生み出すもの」と考えると、この後の条件の話がつながってきます。
③ 着色物質の構造を切る
歯の色を濃くしている原因は、有機質の物質です。飲食物由来のもの、加齢に伴って蓄積したもの、いずれも歯の内部に存在しています。
こうした物質は、その構造によって特定の色に見えています。フリーラジカルは、この構造の結合を切り離す働きをします。
④ 色として見えなくなる
構造を切られた物質は、より小さな分子に分かれます。そして小さくなった分子は、色として認識されなくなります。
つまりホワイトニングは、色を落としているわけでも、覆っているわけでもありません。色のもとになっている物質を、色を持たない形に変えているという仕組みです。
なお、薬剤が象牙質まで届くという性質は、施術中や施術後にしみる症状が出る背景でもあります。この点は「ホワイトニングで歯がしみるのはなぜ?仕組みと、症状が出たときの対処」で扱っています。
反応が進むための条件
分解によってフリーラジカルが生じ、それが働く。この反応は、条件によって進み方が変わります。
温度と光
熱や光は、反応を促す方向に働きます。
医院での施術で光を当てるのは、この性質を使うためです。短時間で作用させる設計が成り立つのは、光によって反応が進みやすくなっているからでもあります。
時間
一方、光や熱を使わなくても、時間をかければ反応は進みます。濃度が低くても、長く作用させれば結果につながる。自宅で行う方法はこの設計です。
ただし、ここに落とし穴があります。時間を延ばせば延ばすほど進むわけではありません。 反応に使われる薬剤の量には限りがあり、働き手を出し尽くせばそれ以上は進まなくなります。
装着時間が決められているのは、その薬剤で反応が進む範囲に合わせているためです。延長しても得るものはなく、歯や歯ぐきへの負担だけが増えることになります。
薬剤の状態
ここも知られていない部分です。
過酸化水素は、中性からアルカリ性の環境では分解が進んでしまう性質を持っています。そのため製品としては酸性の状態で保管されます。使う前に分解が始まってしまわないようにするためです。
そして使用時に中性から弱いアルカリ性の環境になることで、フリーラジカルの発生が進みます。
ジェルに保管の条件が指定されるのは、これが理由です。 温度や保管方法の指定を外れると、使う前に分解が進み、実際に歯へ届く量が想定と変わってしまいます。期限や保管条件は、単なる形式ではないということです。
ジェルの扱いについては「ホームホワイトニングのジェルとは?成分と濃度の考え方、入手経路の見分け方」で扱っています。
空気に触れないこと
もうひとつ、自宅で行う方法に特有の条件があります。
マウスピースを装着すると、薬剤が空気に触れにくい状態になります。この密閉によって、作用が保たれやすくなるとされています。
自宅で使う薬剤は医院で使うものより濃度が低いにもかかわらず、続ければ結果につながる。その理由のひとつが、この装着による環境にあります。マウスピースは薬剤を歯に留めるだけの器ではなく、反応の条件をつくる役割も持っているということです。
歯型に合っていないマウスピースだと結果が出にくいと言われるのも、薬剤が行き渡らないことに加えて、この条件が保たれにくいことが関わっています。
なぜ人工物は白くならないのか
ここまでの仕組みが分かると、この疑問にも答えが出ます。
フリーラジカルが働きかける相手は、着色の原因になっている有機質の物質です。歯の中にあるその物質の構造を切ることで、色が変わります。
そして、セラミック、レジン、金属といった人工物は、その相手を持っていません。分解すべき対象が存在しないため、反応そのものが起こりません。
つまり、人工物に対しては効きが弱いのではなく、作用する相手がいないということです。だから濃度を上げても、時間を延ばしても、回数を重ねても変わりません。ここは条件を変えて解決できる部分ではありません。
その結果、天然の歯と人工物が混在している口の中では、天然の歯だけが明るくなります。もともと色が合っていた詰め物が、周囲の変化によって目立つようになる。これは薬剤が働かなかったのではなく、働く場所と働かない場所が分かれた結果です。
前歯に人工物がある場合は、始める前にその位置と数を確認しておくことになります。
効きにくい変色がある理由
天然の歯であっても、変わりにくいものがあります。これも仕組みから説明がつきます。
神経を失った歯。 この場合の変色は、歯の内部で起きた変化によるものです。色のもとが存在する場所と、外から作用させた薬剤が届く場所が一致しないことがあります。そのため、外側からのアプローチでは十分に変わらないことがあります。
歯がつくられる時期に取り込まれた変色。 これは着色が後から「付いた」ものではなく、歯の構造の一部として組み込まれている状態です。表面や内部に蓄積した物質を分解するのとは前提が違うため、同じようには進みません。
エナメル質の状態による差。 薬剤が内部へ届くまでの通り道は、人によって条件が異なります。厚みや密度に差があるため、同じ薬剤を同じ時間作用させても、内部に届く量は変わります。
これは効果の出方だけでなく、しみやすさにも関わります。届きやすい状態にある方は変化を感じやすい一方、刺激も伝わりやすくなる。進み方と負担は同じ条件から生じているため、片方だけを取り出して調整することはできません。だから濃度と時間の設計が人によって変わります。
いずれも「効かない」というより、作用の前提が違うというほうが正確です。自分の変色がどれに当たるかは見た目では判断しにくいため、確認してもらうと方針が決まります。
仕組みから分かる、決まりごとの理由
最後に、言われることの多い決まりごとを、仕組みと対応させて整理します。
| 決まりごと | 仕組みから見た理由 |
|---|---|
| 装着時間を守る | 反応に使われる量には限りがあり、延ばしても進みは増えない |
| 施術の間隔を空ける | 作用を受けた歯の表面が元の状態に戻る時間が要る |
| 保管の条件を守る | 使う前に分解が進むと、歯に届く量が変わる |
| あふれた薬剤は拭き取る | 反応は歯以外の場所でも起こる |
| 施術後に色の濃いものを控える | 表面を守る膜が一時的に失われている |
こうして並べると、どれも反応を想定どおりに進めるための条件であることが分かります。
決まりごとを理由とセットで持っておくと、守る意味が具体的になります。そして、うまく進んでいないときにどの条件が崩れているのかを考えられるようになります。
医院で行う施術が実際にどう進むかは「オフィスホワイトニングとは?1回でどこまで白くなるか・費用・通う回数を解説」で扱っています。
よくある質問
薬剤は歯の中に残りませんか?
薬剤は反応の過程で分解されて働くもので、その役目を終えれば残り続けるものではありません。施術後は口をすすぎ、医院での施術であれば薬剤を洗い流す工程が入ります。気になる点があれば、施術を受ける前に確認してください。
濃度が高いほうが、仕組みとして効率がいいのですか?
同じ時間で比べれば反応は速く進みます。ただし、歯や歯ぐきへの刺激も同時に強くなります。低い濃度で長く作用させても到達点は設計できるため、濃度と時間の組み合わせで考えるものであり、濃度だけを取り出して優劣を比べるものではありません。
一度分解した色素は、また元に戻るのですか?
分解された物質そのものが元の形に戻るわけではありません。色が戻っていくのは、別の理由によります。ひとつは飲食や喫煙によって新たな着色が加わること、もうひとつは加齢などによって歯の内部の状態が変化していくことです。つまり、同じ場所が元に戻るというより、新しく色が足されていくと考えるほうが実際に近くなります。着色を抑える習慣が色戻りの速さに影響するのは、このためです。
市販の歯磨き粉は同じ仕組みですか?
仕組みが異なります。歯磨き剤は歯の表面に付いた着色に働きかけるもので、歯の内部にある色のもとを分解するものではありません。作用する場所が違うため、期待できる変化も変わります。この違いについては「歯の黄ばみを取る方法は?取れる黄ばみと取れない黄ばみの見分け方」で扱っています。
まとめ
ホワイトニングは、歯を削るのでも表面を覆うのでもなく、歯の中にある色のもとを、色を持たない形に変える方法です。
過程としては、薬剤がエナメル質を通って象牙質に届き、そこで分解してフリーラジカルを生じ、それが着色物質の構造を切ることで、色として見えなくなります。薬剤そのものが色を消しているわけではありません。
反応の進み方は温度と光、時間、薬剤の状態、空気に触れないことという条件に左右されます。装着時間や保管条件が決められているのは、この条件を保つためです。
そして、人工物が白くならないのは、作用する相手がいないからです。効きが弱いのではなく反応が起こらないため、濃度や時間を変えても結果は変わりません。神経を失った歯や、歯がつくられる時期に取り込まれた変色も、前提が違うため同じようには進みません。
決まりごとの理由が分かっていると、進み方が想定と違うときにどの条件が崩れているのかを考えられるようになります。
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※ホワイトニングは自由診療(保険適用外)です。
・治療内容:マウスピースを用いたホームホワイトニング
・標準的な費用:初月22,000円(税込/マウスピース作成を含む)、2ヶ月目以降11,000円/月(税込)。マウスピースをお持ちの方は初月11,000円(税込)
・主なリスク・副作用:施術中や施術後に歯がしみる(知覚過敏)、歯ぐきの一時的な白濁や刺激感、時間の経過にともなう色調の後戻りが生じる場合があります
・受けられない場合:無カタラーゼ症の方、妊娠中・授乳中の方、未治療の虫歯や重度の歯周病がある方などは受けられない場合があります
・効果の感じ方や必要な期間には個人差があります



